高齢者ドライバーと運転免許証自主返納制度、返納の実態、問題点

運転免許自主返納制度と返納の実態、問題点

最近高齢ドライバーによる重大事故が相次ぎ、度々話題になっています。

こうした事故をふせぐために政府が呼び掛けているのが運転免許証の自主返納です。

しかし警察庁が75歳以上の人に行ったアンケートで、運転を継続している人のうち

「運転免許を自主返納しようと思ったことがない」

と答えた人が67.3%だということです。

(参考文献 平成27年度 警察庁委託事業報告書「 運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果 」より)

この調査は4年前のものなので現在ほど運転免許証の自主返納が問題視されなかった可能性はありますが、低い数値ではありませんね。

実際高齢の親の運転を不安だと思っている人も多いことと思います。

高齢者ドライバーの事故を少しでも減らすべく行われているのが運転免許証自主返納制度です。

高齢などで運転に自信がなくなった方などが、運転免許証の取り消しを申請し、返納した場合は身分証になる「運転経歴証明書」が公布されます。

地域によってはいろいろな特典がある場合もあります。

警察庁の調査によると、平成30年末に運転免許証を持っている75歳以上の後期高齢者はおよそ560万人。
これに対し、免許を自主的に返納したのは年間約30万人です。

高齢の親に運転免許を返納するのを説得する難しさはよく話題になりますよね。

私の父は87歳。
かなり高齢なのですが、運転免許証を持ち、実際に運転しています。

元気で運転しているのは良いのですが、やはり運転能力は明らかに衰えていて不安になります。

どうして運転免許を自主返納しないのかというと、足の悪い要介護の義母の買い物や病院の送り迎えに必要という事情が大きいと思います。

私や他の家族がフォローできれば良いのですが、なかなかパーフェクトにはできない、また本人たちがそれを好まないといったことがあります。

また、家族としては、本人のプライドを傷つけそうなので言いにくいな、という気遣いもあります。

いずれにしても心配なのだけれど、今後どうしたらいいだろう・・・という状態。

ただ高齢者ドライバーが事故を起こした場合、過剰に年齢について問題視することもいかがなものかという気持ちもあります。
高齢者と言っても能力差は個人差が大きいのです。

実際よく問題になるアクセルとブレーキの踏み間違いは若年ドライバーにも多い問題なのです。

高齢者ドライバーのバッシングにつながるのは望ましくないと考えております。

それでも父の運転を見ていると、大変慎重なのは良いのですが、反応スピードや車庫入れなどに不安が見られるのは事実。
事故は起こしていないんですけれどね。

高齢者ドライバーの運転免許自主返納問題について掘り下げて考えてみます。

高齢者ドライバーの運転免許自主返納は何が障害になっているのか

さて、高齢者の親に運転免許自主返納を説得する場合、障害となるのは

「必要性、利便性の問題」
「心の問題」

大きく分けるとこの二つに包括されるのではないでしょうか?

すなわち細かく分けますと以下の4パターン。

1.必要性、利便性の問題
~車がないと不便。交通手段がない~

2.心の問題
①問題を感じていない。自分はまだ大丈夫と思っている。
②子や孫に指図されるのがいや。
③車が大好き。車で出かけるのが生きがいになっていて手離せない。

現実には複数の要因が絡み合っている場合も多いと思います。

必要性、利便性の問題~車がないと不便。交通手段がない~

大都市圏ならいざ知らず、車がないと暮らせないという地域はかなり多いのです。
実際免許返納率は、大都市で高く地方に行くほど低くなっているという実態があります。(下図参照)

運転免許返納率が最も高いのは東京なのですが、車がなくては買い物にも病院にも行けないという地域では、なかなか運転免許証を返納できないのが現状でしょう。
フォローできる家族が同居していない場合はなおさらですね。

心の問題

①問題を感じていない。自分はまだ大丈夫と思っている。

もちろん元気で運転できるのは望ましいことであり、年齢だけを理由に免許所持を問題視する必要はありません。

むしろ認知症予防や健康の観点から考えて自動車の運転がプラスに働いている場合もあり得ます。
しかし現実を認識していない過剰な自信や、周囲の認識と違いがある場合は問題です。

自分がどのような人間かについての主観的な自己 認識のことを心理学では「メタ認識(あるいはメタ 認知)」と言います。
つまり、『自分は運転が上手』『自分はベテランで有能な運転者』というような自己認識のことですが。
このような自尊心を持っている人は思いの外多く、高齢者の運転免許証変換の妨げになっている可能性があります。

そもそも老いは気付かぬうちにやってくるものであり、人間は主観的には今まで通り若いというメタ認識を持つ傾向があるのです。

(参考文献『高齢者の自動車運転の背景としての心理特性』佐藤眞一*島内 晶)

自尊心や有能感は諸刃の刃で、長寿の秘訣ともなるのですが、高齢者の思わぬ事故につながることもありうるのです。

②子や孫に指図されるのがいや。

①の問題とも関連しますね。
高齢の方は「自分はまだ若い」というメタ認識を持ちがちです。
しかし、周囲はそうは見ておらず、運転に不安を感じて、運転免許証返納を願っている場合、これはちょっと厄介です。

家族から見て運転が不安な場合は、何とか説得して、運転をやめてもらうか、免許証を返納してもらいたいところです。
しかし、プライドという感情的な部分も絡んで本人が説得に応じたがらないということはありがちです。

また家族の側が説得したくても説得できない場合もあるでしょう。

明らかに運転に問題がある場合は、ご家族よりもお医者さんなどの第三者に言ってもらうのもひとつの方法です。
また、子供よりは孫に言ってもらった方が角が立たないという意見もあります。

バンパーをぶつける、こするなどの実際に軽い損傷があった場合は写真を撮るなどをして、説得の材料にするなどの方法もあるでしょう。

③車が大好き。車で出かけるのが生きがいになっていて手離せない。

「運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果」では、自動車を運転することの意味は7割以上の人が「交通手段」と回答していますが、「生きがい、楽しみ」と回答している人も2割近くおり、決して少ない数ではありません。

(参考文献 平成27年度 警察庁委託事業報告書「 運転免許証の自主返納に関する アンケート調査結果 」より)

もちろん、自動車大好きと言う人もいるでしょうね。

そうでなくても趣味を持ち充実した人生を送るために車が役立っていると言う面は否定できません

特に地方では、自動車を持たない高齢者は、持っている人に比べて外出頻度が大きく減る傾向があります。

趣味や友人との交流など自分の好きな活動するために出かけることで、人は、より充実した生活ができるのです。

運転免許返納によって外出の機会が減り、楽しみが奪われるという事態は、なるべく避けたいですね。

高齢者ドライバーと運転免許自主返納制度はどこへ向かうか

高齢者に免許返納を促す動きが強まっていますが、高齢者の運転だけを問題視するのは安易かなと思います。
実際ブレーキとアクセルの踏み間違いは高齢者だけに限ったことではなく、若い世代の交通事故はそれ以上に多いのですから。
「自動車がないと生活できない」という地方を中心とした根強い声もあります。

高齢者の運転に関しては社会全体で安全や利便を確保する仕組みを考えていかなければならないのでしょう。

高齢者ドライバー問題の重要な点は主に以下にあるのではないでしょうか?

①家族のコミュニケーション、フォロー
②法律、行政レベルでの整備
③自動ブレーキ、自動運転などの技術の整備

高齢者ドライバー問題と家族のコミュニケーション、フォロー

高齢者ドライバーの問題に関してはどうしても家族との関わりが問題になってきます。
実際高齢者ドライバーの親を持ち、心配している40~50代世代の子供は私を含めて多いのではないでしょうか?
運転免許証返納を説得するのも子供が多いことと推測されます。

現実的には運転免許証返納をした高齢者の交通の利便性を確保するには家族のフォローが必要なことは多いと思います。
また、フォローが思うようにできない、負担になるということもあるでしょう。

難しいことも多いと思いますが、家族間のコミュニケーションは大切ですね。

高齢者ドライバー問題と法律、行政レベルでの整備

例えば私の夫の実家札幌では、高齢者は地下鉄、バス料金が優遇される福祉制度があるようです。
夫の父親、義父は運転免許証を返納してこの制度を大いに利用しているようです。

しかし私が在住している千葉市では、このような制度はありません。
一部にはあるかもしれませんが、いずれにせよ市街地を自由に行き来できる状態にはなっていません。

家族で話をした時にも
「バス料金が無料にでもなってくれれば、免許なくても大丈夫なのにね」
なんて会話をしたことがあります。

まあ、札幌も千葉も大都市なのでまだよいのですが。

自治体によって取り組み方は色々ですが、公共交通機関の整備と高齢者への優遇措置は高齢者ドライバー問題にとって大きな要因になってくるはずです。

免許証返納の特典なども色々考えてほしいですね。

近年「MaaS(マース)」という取り組みが出てきたようです。
Mobility as a Service (モビリティ・アズ・ア・サービス) の略で、タクシーやバスや鉄道などを一体的なサービスにしようという試みです。

アプリなどを活用して交通機関を一つのサービスとしてまとめて検索や予約、支払いができるという構想です。

このような試みが高齢者ドライバー問題にどうかかわっていけるのか今のところ未知数ですが。
新たな試みによって地方の利便性が向上できるとすれば問題解決の糸口になるかもしれません。

また、海外でも実施されている限定免許制度や3年間を更新期限とする現行制度の見直しなど、法的にも様々な議論がなされています。

高齢者ドライバー問題と自動ブレーキ、自動運転などの技術の整備

現在国は自動運転化に向け議論を進め、取り組みがなされつつあります。
自動運転は法的には困難が伴うし、まだまだ始まったばかりでです。

しかし、自動ブレーキなどの安全性に配慮した自動車の普及は、高齢者ドライバー他アクセルブレーキ踏み間違い事故を減少させるのに有効でしょう。

東京都はアクセルとブレーキを踏み間違えた時に急発進を防ぐ装置の取り付け費用を9割程度補助するという方針を発表しました。

このような取り組みは高齢者ドライバーの親を持つ当事者としては歓迎なので、他の自治体でも考えてほしいものです。

高齢者ドライバーの問題は簡単ではありません。
87歳の親を持つ私も心配ですし、当事者として考えなければなりませんね。

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